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日本安全保障貿易学会 第21回 研究大会終了

 第21回日本安全保障貿易学会研究大会は、61名の参加者を得て2016年3月19日(土)に同志社大学にて、午前の自由論題セッション、午後のテーマセッションの2部構成で開催された。

 午前の自由論題セッションでは3件の発表があり、1件目として米満氏から「輸出管理におけるプログラムとソフトウェア」、2件目は松村氏から「「武器輸出」に対する国民の忌避意識の特徴:試行的意識調査の結果から」、また、3件目は須江氏から「対北朝鮮・イラン制裁における中国の姿勢」と題した発表があった。

  米満氏は日本のプログラムの規制と、国際レジームにおけるソフトウェア規制に関する考察を行った。両者は別概念であり、このため内外の規制範囲に違いが生じていることを指摘した。定義上の差の考察を通じて両者の異同を明確化すると共に、規制のあり方を考察し、特に機器への組込プログラムに差異が顕著であるとした。

  松村氏は武器輸出条件の緩和に反対する忌避意識の調査に関する考察を発表した。世論調査では武器輸出緩和に対し反対が過半数であるが、この忌避意識の実態に関する特徴を明らかにした。傾向として、殺傷力が低い装置の場合、許容度は高いが利益追求を目的とする場合は否定的な傾向となった。また、既存メディアが実施した世論調査との差異についても検討を行った。

 須江氏は、対北朝鮮・イラン制裁に関する中国の姿勢について言及した上で、中国の行動の評価を行った。制裁の効果・目的に関する3つの視点、すなわち、制裁は、「機能する」、「機能しない」、「シンボルである」の観点で検討した。中朝関係は相互に人質状態であり、かつWMD拡散は米国の外交政策では重要だが、中国にとっては最重要課題ではないなど、経済制裁に対する中国の実行には多くの課題があることを指摘した。

 午後は2件のテーマをとりあげた。第1セッションでは、「イラン制裁緩和後の輸出管理」として3名より発表があった。
最初は鈴木氏より国連によるイラン制裁と緩和後の状況についての考察があり、ターゲット制裁の効果・その限界の解説があった。一方、イラン制裁は解除されたものの、米国による一方的な制裁継続等の問題提起があった。イランでは核合意は遵守するものの、安保理決議の履行に対し、軽視しているとの発表があった。

 松本氏(急病のため欠席し、佐藤氏が代読)からは金融制裁の効果に関する発表があった。米国の制裁はイラン制裁法、愛国者法等を根拠とする資産凍結、取引禁止等の手法を通じ、非米国系金融機関への影響力を行使してきたが、緩和措置としてイラン中央銀行のSDNの指定を取り消すなど従来の制裁措置の一部解除、ドル建て以外の取引再開が可能になるなどの緩和を行った。但し、ユダヤ系市民を敵に回すなど、第三国に影響を及ぼす可能性があることを指摘した。

  村上氏からは制裁緩和後の中東地域秩序に関する考察があった。イラク戦争前は、イラク-サウジ-イランの関係に加えて米国が直接イランと対立する構図であったが、イラクの弱体化・米国の関与が弱まる中、サウジ-イランの対立という構図が強調された。これにロシアが介入し、イエメン、シリアなど周辺地域が複雑にからんできたが、対イラン制裁はサウジ-イラン間のパワーバランスには大きな影響は与えない、と考察した。
第2セッションでは「非国家主体に対する輸出管理」のテーマを取り上げた。
小泉氏より、テロ組織へのモノの流れ、として旧ソ連・社会主義諸国におけるガバナンスと武器ブローカリングの発表があった。旧社会主義体制では準戦時体制が敷かれ、大量の武器が生産されており、冷戦後、旧ソ連の武器庫から大量の盗難・横流しなどがあったとされる。ロシア・旧社会主義国からの武器流出、武器ブローカリング、例えばオデッサネットワークの例を示し、警鐘を鳴らした。

  黒井氏からはISの武器調達の過程について発表された。氏の豊富な経験からISの武器調達の構造などが解説された。ISの武器調達の仕組みは、最高軍事委員会から現地委員会、更に地域武器センターへと武器調達の指令がなされ、兵器ディーラーを通じ武器、弾薬が供給される。ルートはシリアではAleppo、Suwaidaなどがその供給地とみられている、等の報告があった。

  榎本氏からは、「非国家主体に対する武器移転の問題をめぐって」と題した発表があった。非国家主体への武器移転問題は近年だけではなく、19世紀末から問題視されており、19世紀末から冷戦期まで、及び、1990年代以降を対比させ問題意識の変遷を論じた。1990年度以降は、「新しい戦争」問題、国家が人々を保護する意思などに対する懐疑、などの論点が議論され、WA、ATTなどの合意文書における非国家主体への武器移転問題の扱われ方について考察がなされた。

  今回の研究大会では自由論題セッションにおいて3件の応募があり、多彩な方面での討議がなされた。また、テーマセッションではイラン制裁解除に対する影響、非国家主体への輸出管理の二つのテーマをとりあげたが、それぞれ現時点でもっとも関心を集めているテーマであり、多くの側面からの分析が報告され、フロアからも活発な質問・意見が出され有益な研究大会であった。

2016年4月
日本安全保障貿易学会 会長 佐藤 丙午



佐藤会長 挨拶


会場風景

日本安全保障貿易学会 第21回 研究大会プログラム

日時:2016年3月19日(土)
    10:30~12:00  自由論題セッション
    13:00~15:00 第1セッション
    15:10~17:00  第2セッション
会場:同志社大学(京都府)
    室町キャンパス 寒梅館 211 号室  (寒梅館 KMB211 教室)
    京都市上京区烏丸通上立売下ル御所八幡町103

 

午前の部 自由論題セッション 10:30~12:00

報告者:米満 啓氏(第一輸出管理事務所)
     「輸出管理におけるプログラムとソフトウェア」

報告者:松村 博行氏(岡山理科大学)
     「「武器輸出」に対する国民の忌避意識の特徴:試行的意識調査の結果から」

報告者:須江 秀司氏(内閣府遺棄化学兵器処理担当室)  
     「対北朝鮮・イラン制裁における中国の姿勢」

司会討論者:佐藤 丙午氏 (拓殖大学)

午後の部 テーマセッション
第1セッション:<イラン制裁緩和後の輸出管理> 13:00~15:00

報告者:鈴木 一人氏(北海道大学)
    「イラン制裁緩和後の状況について

報告者:松本 栄子氏(東洋英和女学院大学大学院修了生)(佐藤 丙午氏 代読)
    「対イランの金融制裁の実際と展望」

報告者:村上 拓哉氏(中東調査会)
    「制裁緩和後の中東地域秩序:サウジアラビアとイランの対立の展望」

司会討論者:森川 幸一氏(専修大学)

 

第2セッション:<非国家主体に対する輸出管理> 15:10~17:00

報告者:小泉 悠氏(未来工学研究所)
    「テロ組織へのモノの流れ-旧ソ連・社会主義諸国におけるガバナンスと武器ブローカリング」

報告者:黒井 文太郎氏(軍事アナリスト)
    「非国家主体の兵器調達手段について」資料(シリア反政府軍の兵器)

報告者:榎本 珠良氏(明治大学 国際武器移転史研究所)
    「非国家主体に対する武器移転の問題をめぐって」

司会討論者:岩本 誠吾氏(京都産業大学)

 


自由論題セッション
左より  佐藤 丙午氏、須江 秀司氏、松村 博行氏、米満 啓氏



第1セッション:「イラン制裁緩和後の輸出管理」
左より  森川 幸一氏、佐藤 丙午氏(松本 栄子氏代理)、村上 拓哉氏、鈴木 一人氏

 


第2セッション:「非国家主体に対する輸出管理」
左より  岩本 誠吾氏、榎本 珠良氏、黒井 文太郎氏、小泉 悠氏