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第27回 日本安全保障貿易学会 研究大会終了

 

 第27回日本安全保障貿易学会 研究大会は、約60名の参加者を得て2019年 3月 9日(土)に同志社大学にて開催された。午前の自由論題セッション、及び、午後のテーマセッションに分けて実施された。

 自由論題セッションでは2件報告があり、加藤 もえ氏が「中国が狙う米国の技術-2011年から2018年の違反事例の報道等から見るその傾向-」のテーマで報告があった。中国によるサイバー攻撃やスパイ活動、外資の技術移転の強制を通した技術や知的財産の窃盗についての米国の指摘から、中国が狙う米国の技術を2011年よりの米国の実際の違反事例等からその傾向を報告した。
 次に福井 康人氏から「自律型致死兵器システム政府専門家会合(LAWS-GGE)の現状と課題」と題し報告があった。自律型致死性兵器システム・政府専門家会合は、「今後の方針」が昨年合意されたものの、最終的な成果物の姿さえ見えていない。この3月下旬・8月に予定されているLAWS-GGEに向けて日本が留意すべき点について報告した。

 午後のテーマセッションでは2件のテーマをとりあげた。第1セッションでは、「AIと安全保障貿易管理」として2名より報告があった。
 まず、中川 裕志氏より、「人工知能と倫理」と題し、AIの歴史、仕組を解説したうえで、現代AIはブラックボックス化が進行中であるとした。その結果、透明性、accountability(責任をだれがとるかを説明)が曖昧であり、そのためトラスト(社会科学的な信用)が重要であるとした。次にAIの軍事利用面の自律兵器の倫理的問題にフォーカスした。自律兵器は、秘密裡に帰属不明な状態で運用され、結果責任をあいまい化されがちである。それゆえ、自律兵器は紛争を急速に拡大される危険があると指摘した。今後、AIの軍事利用は避けることができない以上、デュアルユースへの態度はしっかり考えるべき時期であると結んだ。

  次に佐藤 丙午氏から「人工知能の安全保障上の可能性と情報の管理について」のテーマで報告があった。「第三のオフセット(敵対者との競合上優位を確立する)」戦略と人工知能の解説があり、LAWSでの人道法の枠内での議論の紹介があった。AIのキー技術は「ビッグデータ」と「アルゴリズム」だが、軍事用途としては「攻撃サイクル」と「データラベリング」がそのキー技術と言える。米国ECRA(輸出管理改革法)では新基本技術(Emerging and Foundational Technology)として輸出を前提としない管理が検討されている。今後、リスト管理以外の管理方法が必要だと指摘した。

 第2セッションでは「中国の先端技術開発をめぐる安全保障貿易管理のこれから」として3件の報告があった。
 最初に風間 武彦氏より「中国の技術獲得戦略-軍民融合の活用と関連政策-」と題し、報告があった。中国が軍近代化を進めるために獲得を狙う技術として核・ミサイル関連、航空・宇宙、船舶海洋、先端材料、材料加工、半導体関連などがあり、技術獲得手法の現状はアウトバウンドM&A、中国企業と外資の中国国内の合弁事業、海外留学、千人計画、サイバー攻撃などがあるとした。そのうえで、軍民融合発展を支援するための関連政策として、軍事四証(三証)制度改革、軍民融合発展委員会の設立と同戦略の展開(軍民融合発展法の制定予定等)などを遂行しており、さらに、域外調達活動を支援するための関連政策としてサイバーセキュリティ法による情報確保、国家情報法による協力、義務、共産党支部設置・関与義務付け条例、輸入の税率による優遇の有無などがあるなど、様々な法制度で、中国企業等による技術窃取を支援・正当化しようとしている可能性が高い、とした。

 次に森本 正崇氏より「中国の技術に対する米欧の対応」と題し、米欧の中国に対する戦略に関し報告があった。国防総省のDIUx(国防イノベーション部隊実験)レポートでの米国の優位性確保の検討を解説した。本検討はオバマ政権から開始されており安全保障上の懸念から始まったもので、ベンチャー企業と大学に重点を置かれた。本対応の原点は、米国における中国の位置づけの変化であり、直接のトリガーは中国製造2025であるとした。

 最後に鈴木 一人氏より「米中技術覇権競争時代の安全保障貿易管理」として報告があった。技術覇権は技術を持つだけでも、最終製品だけでも覇権にならないとした。技術のすりあわせの技術、グローバル・サプライチェーンがあって初めて成立する、とした。現時点の技術覇権の戦場としては5G等の通信機器、暗号技術、無人技術、宇宙技術などがあるが、コストの問題、技術覇権を支える技術の問題等、単純ではないと指摘し、そのうえで、技術覇権時代の貿易管理としては、「軍事利用でなくとも覇権を握られるリスク」、「存在しない技術の管理」、「人の移動に伴う技術の管理」、「仕組み技術を巡る問題」などが考慮されるべきとした。

 今回は、午後のテーマセッションでは「AIと安全保障貿易管理」、及び、「中国の先端技術開発をめぐる安全保障貿易管理のこれから」の二つのテーマをとりあげた。午前の自由論題セッションではこのテーマセッションに関連した報告がなされ、興味深いものであった。それぞれ現時点で関心の高いテーマであり、多くの側面からの分析が報告され、フロアからも活発な質問・意見が出され有益な研究大会であった。

2019年4月
日本安全保障貿易学会 会長 鈴木 一人

 

 

佐藤 副会長 挨拶

会場風景

 

日本安全保障貿易学会 第27回 研究大会プログラム

日時:2019年3月9日(土)
   10:30~12:00  自由論題セッション
   13:00~14:30 第1セッション
   15:40~16:40  第2セッション
会場:同志社大学(京都府)
    室町キャンパス 寒梅館 211 号室  (寒梅館 KMB211 教室)
    京都市上京区烏丸通上立売下ル御所八幡町103

午前 自由論題セッション 10:30~12:00

(1) 報告者:加藤 もえ氏(CISTEC)
「中国が狙う米国の技術 -2011年から2018年の違反事例等から見るその傾向-」 (資料添付省略)
(2) 報告者:福井 康人氏(広島市立大学 広島平和研究所)
「自律型致死兵器システム政府専門家会合(LAWS-GGE)の現状と課題」
司会討論者:佐藤 丙午氏(拓殖大学)


午後のテーマセッション
第1セッション:<AIと安全保障貿易管理>               13:00~14:30

(1)報告者:中川 裕志氏(人工知能学会 倫理委員会、理化学研究所)
「人工知能と倫理」
(2)報告者:佐藤 丙午氏(拓殖大学)
「人工知能の安全保障上の可能性と情報の管理について」

司会討論者:高野 順一氏(日本輸出管理研究所)

第2セッション:<中国の先端技術開発をめぐる安全保障貿易管理のこれから> 15:10~17:00

(1)報告者:風間 武彦氏((株)産政総合研究機構)
「中国の技術獲得戦略-軍民融合の活用と関連政策-」(資料添付省略)
(2) 報告者:森本 正崇氏(慶應義塾大学)
「中国の技術に対する米欧の対応」
(3)報告者:鈴木 一人氏(北海道大学)
「米中技術覇権競争時代の安全保障貿易管理」

司会討論者:中野 雅之氏(CISTEC)


自由論題セッション:
加藤 もえ氏:「中国が狙う米国の技術 -2011年から2018年の違反事例等から見るその傾向-」
福井 康人氏:「自律型致死兵器システム政府専門家会合(LAWS-GGE)の現状と課題」
左より佐藤 丙午氏、加藤 もえ氏、福井 康人氏



第1セッション:「AIと安全保障貿易管理」
左より  高野 順一氏、佐藤 丙午氏、中川 裕志氏

 

第2セッション:「中国の先端技術開発をめぐる安全保障貿易管理のこれから」
左より中野 雅之氏、鈴木 一人氏、風間 武彦氏、森本 正崇氏