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日本安全保障貿易学会 第20回 研究大会終了

 第20回日本安全保障貿易学会研究大会は、64名の参加者を得て2015年9月12日(土)に拓殖大学にて、午前の自由論題セッション、午後のテーマセッションの2部構成で開催された。

 午前の自由論題セッションでは蔭山氏から「国際連携推進と安全保障輸出管理-情報通信研究機構の事例研究-」のテーマで、また、福井氏から「武器貿易条約(ATT)-関連する国際文書から見て-」と題し、2件の報告があった。
 前者は研究機関における輸出管理のあり方、仕組みなどの考察を行い、更に今後の課題(考え続けなければならない問題)に対する提示があった。研究開発機関が国際連携を推進するにあたりどのような点が安全保障輸出管理上問題になりやすく、またどのようにして対応していくべきか、特に問題になりやすい役務取引(国際共同研究契約、外国籍研究員の受入れ等)を中心に研究機関としての取り組みが紹介された。
 後者はATT(武器貿易条約)が発効されたが、条約実施の際はどのような点を考慮すべきかの考察が報告された。2014年12月24日に発効した武器貿易条約(ATT)は、28条からなる簡潔な条約であるが、特に禁止(第6条)、輸出及び輸出評価(第7条)については、安保理決議、国際人権・人道法、国際組織犯罪防止条約及びテロ防止条約等、輸出評価の基準を関連する国際約束に委任しており、理解するのはそう容易ではない。本報告においては、特にATTのコアとなる義務を規定した第6条及び7条に引用された関連条約等を中心に、輸出評価の基準をより明確化するために考慮すべき点について考察した。報告者自身が長年ATTの制定にかかわってきた経験を踏まえ、ATTの適用範囲、輸出の禁止の義務、輸出の評価基準等の解説がなされ、これらを勘案した上で、日本がATTの確実な実施に向けての課題の考察が行われた。

 午後は2件のテーマセッションを行った。第1セッションでは、「技術イノベーションと安全保障輸出管理」を取り上げた。2つの視点を取り上げ、1点目は近年話題となっている無人化技術とその応用例である小型ドローン、2点目はサイバー攻撃に関する検討を行った。
 佐藤氏より無人化技術に関する国際社会としての対応がCCW(特定通常兵器使用禁止制限条約)で議論されており、ドローンとLAWS(自律型致死兵器システム)をめぐる人間と指令系統の議論、兵器化に対する将来の潜在的可能性に対する恐怖感情などの紹介がされた。その一方で開発禁止に対する反対論、技術格差が生じる事への懸念などがCCWにて議論されている。また自律化兵器をめぐる議論として安全保障政策に関し無人兵器の目的、マクロ/ミクロな視点として「第3のオフセット戦略」(米国の軍事的な優位性の維持戦略)の解説があり、更に無人化技術の概要の報告として米国防省指令、DARPA、AIをめぐる問題点などの紹介があった。
 これを受け、岩本氏からは小型ドローンの法整備のあり方に関する報告があった。ドローンの個人使用、商業活用の要請はあるものの、軍事利用も含めた危険性の認識が拡大され、米国、EU等での規制の動きが紹介された。日本ではドローン飛行禁止法案、航空法改正案が審議され、ドローンによる撮影のガイドライン、地方自治体の独自条例が検討されている。一方、産業界からは自由度が低いとの不満が出ている。欧米等の議論を踏まえ、日本での法整備の方向性は商業活用化と安全確保の両立が求められ、そのため、飛行禁止区域の設定、飛行許可要件の設定などが求められる、等の考察があった。
 もう一つの技術イノベーションのテーマとして、田中氏からサイバー攻撃に関する報告があった。インターネット網の発達により、サイバー攻撃が活発に行われるようになったが、その手法、対処の体制・技術等につき報告があった。インターネット上での攻撃は電磁的攻撃の他、サイバー攻撃などの手段がある。サイバー攻撃としては従来ウイルス感染、DDos攻撃などが主流であったが、近年は標的型攻撃(システム内部潜入型)が増え、更にIoTのリスクも増加している。そのため、インシデント情報を共有し予測型情報分析などの対応策が検討されており、脅威に対応するための国際的な枠組みが構築されているとの報告がされた。また、サイバー攻撃に関してはWAでも協議されており、侵入ソフトに対する規制などが実施されたものの、侵入ソフトの定義があいまいであり、発見したマルウェアの検体を外国とやり取りできないなど米国などでは問題提起も行われているとのことであった。

 第2セッションでは「海洋秩序をめぐる諸問題」のテーマを取り上げた。中国等の海洋進出の懸念が重大な問題になっているため、国際法からの観点、また、日本近海の総合的な監視の問題などを討議した。
 鶴田氏よりアジアの海における法の支配のテーマで報告があった。国際社会における「法の支配」は「力の支配」と対置されることが多い。法とルールが支配する海洋秩序を強化することが国際社会全体の平和と安全に不可欠であり、海の秩序は「航海の自由」、「領海における無害通航権」など国際慣習法として国際海洋条約にて明文化している。一方、近年アジアの海では「一方的な主張」、「力による現状変更」により挑戦する動きがある。これに対し、ASEANと中国における協議を行っているものの、進展ははかばかしくない。しかし各国間の共通の枠組みを獲得する面では重要である旨報告があった。
 堀氏からは、「我が国EEZの総合的監視に向けて」と題し、日本のEEZ(Exclusive Economic Zone:排他的経済水域)の紹介、問題提起があった。我が国は国土が世界59位であるものの、EEZ面積では6位、EEZ体積では4位と、広大な水域を保有している。海には自然の脅威、不審船・航空機の侵入などのリスクがあるため、空間的・時間的にシームレスな監視システムの構築が必要である。そのため、沿岸、EEZなどの監視方法などをGOS(グローバル・オブザベーション・システム)研究会にて検討を行っており、その研究成果を報告いただいた。陸上システムとしては探索用陸上レーダシステムの開発及びデータ識別アルゴリズムの開発、航空システムとしては無人機システム・衛星監視システムの開発など、また、海上システムとしては自動船舶識別装置・情報解析、ソナーシステムの開発などの研究内容の紹介があった。海域の安全保障のみならず、災害への対応が期待できるとのことであった。

 今回のテーマセッションでは技術的な側面、地域的な側面の二つのテーマをとりあげた。それぞれ現時点でもっとも関心を集めているテーマであり、多くの側面からの分析が報告され、フロアからも活発な質問・意見が出され有益な研究大会であった。

2015年10月
日本安全保障貿易学会 会長 佐藤 丙午



佐藤会長 挨拶


会場風景

日本安全保障貿易学会 第20回 研究大会プログラム

日時:2015年9月12日(土)
   10:30~11:50  自由論題セッション
   (12:40~13:10 2015年度総会)
   13:10~15:10 第1セッション
   15:20~17:00  第2セッション
会場:拓殖大学(東京都 文京区)文京キャンパス C201教室
   〒112-8585 東京都文京区小日向3-4-14
   TEL:03-3947-9295

第20回研究大会

午前の部 自由論題セッション 10:30~11:50

① 蔭山 有生 氏(国立研究開発法人 情報通信研究機構)
  報告タイトル:「国際連携推進と安全保障輸出管理 -情報通信研究機構の事例研究-」

② 福井 康人 氏(広島市立大学 広島平和研究所)
  報告タイトル:「武器貿易条約(ATT)-関連する国際文書から見て-」

  司会討論者:藤本 修 氏(CISTEC)

午後の部 テーマセッション
第1セッション:<技術イノベーションと安全保障輸出管理> 13:10~15:10

① 佐藤 丙午 氏(拓殖大学)
  報告タイトル:「無人化技術」

② 岩本 誠吾 氏(京都産業大学 法学部法政策学科)
  報告タイトル:「日本における小型ドローンの法整備の在り方 -比較法の視点から-」

③ 田中 達浩 氏(富士通システム統合研究所)
  報告タイトル:「サイバー攻撃」

  司会討論者:青木 節子 氏(慶應義塾大学)

第2セッション:<海洋秩序をめぐる諸問題> 15:20~17:00

① 鶴田 順 氏(海上保安大学校/政策研究大学院大学)
  報告タイトル:「 アジアの海における「法の支配」」

② 堀 雅文 氏(一般財団法人 総合研究奨励会)
  報告タイトル:「我が国EEZの総合的監視に向けて」

  司会討論者:高野 順一 氏(三井物産)


自由論題セッション
左より  福井 康人氏、蔭山 有生氏、藤本 修氏



第1セッション:「技術イノベーションと安全保障輸出管理」
左より  田中 達浩氏、岩本 誠吾氏、佐藤 丙午氏、青木 節子氏

 


第2セッション:「海洋秩序をめぐる諸問題」
左より  堀 雅文氏、鶴田 順氏、高野 順一氏