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日本安全保障貿易学会 第23回 研究大会終了

 

 第23回日本安全保障貿易学会研究大会は、45名の参加者を得て2016年3月18日(土)に同志社大学にて、午前の自由論題セッション、午後のテーマセッションの2部構成で開催された。

 午前の自由論題セッションでは1件の発表があり、岩沢氏から「安全保障政策における外為法上の事後手続について(刑事訴訟法における司法取引を参考にして)」と題し報告があった。外為法における罰則は他の行政法規と比較しても事案処理に向けた法的手当て・手段が少ない。昨年、刑事訴訟法に取り入れられた司法取引(的な運用方法)を参考にしながら、安全保障政策における外為法上の事後対応手続について考察を行った。外為法以外の法制度を参考に考察を行い、新鮮な報告であった。

 午後は2件のテーマをとりあげた。第1セッションでは、「米国トランプ政権の安全保障貿易管理政策」として3名より発表があった。
 最初は鈴木氏より「トランプ政権の対イラン政策」と題し報告があった。トランプ政権は同盟国にも敵対的なレトリック、アメリカ第一主義が特徴である。イラン核合意に関しては核不拡散の関心は薄いものの、現実問題としてイランの核開発阻止が最大の課題とした。但し、政権の混乱が続いており、強烈なレトリックに惑わされることなく冷静に政権の行動を分析することが重要とした。
 渡井氏からは、「アメリカにおける対内直接投資規制の現状とその展望」、と題し報告があった。米国では1988年のExon-Florio法、2007年のFINSAにより国家安全保障の観点で重要産業基盤に対する対内規制が強化された。これまでの具体的な規制事例の紹介の後、トランプ政権の動向が紹介された。中国に関しては引き続き強い関心が寄せられ、技術流出に関して一層重視がされると想定される。また、相互主義の重視が予想される一方、米国経済にプラスの効果をもたらすことが求められる可能性を指摘した。
 松本氏からは、「米国の北朝鮮に対する経済制裁の新潮流」として、北朝鮮に対する経済制裁の手法として、特定の人物に焦点を当てるスマートサンクションから、同盟国に対し二次制裁を課すジェネラスサンクションへの質的変容を指摘した。これまでの米国の北朝鮮、イランに対する制裁の事例を紹介した。これまでは国際協調、多国間交渉を中心に進めてきたが、今後、孤立主義、米国第一主義、二国間交渉に移行することが予想されるとした。その上で、北朝鮮には安保理決議の実効性を高めるため、中国に制裁措置を従わせることができるかが鍵であるとした。

 第2セッションでは「東南アジアの安全保障貿易管理」として2件の報告があった。
 高野氏より、「東南アジア各国のエンフォースメントについて」と題しASEAN各国の現状、輸出管理導入状況に関し報告があった。ASEANの現状として、物流量は世界上位に食い込み、その輸出量は中国、米国、日本が多くを占めている。ただ、北朝鮮に関しては、中国が83%を占めるが、タイ、フィリピンも多い。輸出管理制度に関してはシンガポール、マレーシアが導入済で、フィリッピン、タイが導入準備中であるものの、他はコスト、経済に対する影響等を懸念している。セミナー、法整備への協力・支援を行い、義務+メリット>コストを認識してもらう事が重要とした。
 奥家氏からは「アジア地域に対するアウトリーチ活動について」として、日本政府として行うアウトリーチ活動の報告があった。軍事支出はアジアが欧州地域を上回るようになり、北朝鮮の核実験、中国の国防費の増大など環境が大きく変化している状況の紹介があり、その上で、アジア地域に対するアウトリーチ活動の重要性の一つとして、最年の東南アジアにおけるテロの増加、北朝鮮に対する物流経路としてのアジアを重要視している旨の報告があった。まだまだ課題は多く、法整備が進んでいるシンガポールでもトランスシップメントの面で懸念がある事や、フィリピンには、輸出管理整備を推進する上で、我が国の防衛装備協力もインセンティブにしているとの紹介があった。

 今回の自由論題セッションでは、他法令を参照しながら外為法の事後対応手続に関する考察があり、異なった視線の報告であった。また、テーマセッションではトランプ政権に対する影響、東南アジアの輸出管理の二つのテーマをとりあげたが、それぞれ現時点で関心を集めているテーマであり、多くの側面からの分析が報告され、フロアからも活発な質問・意見が出され有益な研究大会であった。

2017年4月
日本安全保障貿易学会 副会長 鈴木 一人



鈴木副会長 挨拶


会場風景

日本安全保障貿易学会 第23回 研究大会プログラム

日時:2017年3月18日(土)
11:00~12:00  自由論題セッション
13:00~15:00 第1セッション
15:10~17:00  第2セッション

会場:同志社大学(京都府)
室町キャンパス 寒梅館 211 号室  (寒梅館 KMB211 教室)
京都市上京区烏丸通上立売下ル御所八幡町103


午前の部 自由論題セッション 11:00~12:00

報告者:岩沢 直佳氏(所属:機械メーカ 法務課)
     「安全保障政策における外為法上の事後手続について」
     (刑事訴訟法における司法取引を参考にして)」

司会討論者:藤本 修氏

・テーマセッション

第1セッション:<米国トランプ政権の安全保障貿易管理政策>  13:00~15:00

報告者:鈴木 一人氏(北海道大学)
     「トランプ政権の対イラン政策」 資料(イランのミサイル実験と核合意) 

報告者:渡井 理佳子氏(慶應義塾大学 大学院法務研究科)
     「アメリカにおける対内直接投資規制の現状とその展望」

報告者:松本 栄子氏((拓殖大学大学院))
     「米国の北朝鮮に対する経済制裁の新潮流」

司会討論者:村山 裕三氏

 

第1セッション:<米国トランプ政権の安全保障貿易管理政策>  13:00~15:00

報告者:高野 順一氏(日本輸出管理研究所)
    「東南アジア各国のエンフォースメントについて」

報告者:METI安保管理政策課 奥家 敏和氏
    「アジア地域に対するアウトリーチ活動について」

司会討論者:利光 尚氏



自由論題セッション
左より  藤本 修氏、岩沢 直佳氏



第1セッション:「米国トランプ政権の安全保障貿易管理政策」
左より  村山 裕三氏、鈴木 一人氏、松本 栄子氏、渡井 理佳子氏

 


第2セッション:「東南アジアの安全保障貿易管理」
左より 利光 尚氏、奥家 敏和氏、高野 順一氏