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第33回 日本安全保障貿易学会 研究大会終了

   

  第33回日本安全保障貿易学会研究大会は、新型コロナウイルスの影響で2022年3月6日(日)にOnlineにて78名の参加者を得て開催された。午前の自由論題セッションは1名の方から、午後のテーマセッションは2セッションを設け報告があった。

■午前の自由論題セッションでは1名の方から報告があった。

  1.  手塚 沙織氏から「人の国際移動の観点から論じる米中関係」のテーマで報告があった。
    米中対立の様相が米中間の人の移動の変容で論じられることは極めて少なかった。そこで、本報告では、米中間の人の移動の変容を明らかにすることで、人の国際移動の観点から米中対立に至った背景と現状、そしてその問題点を明確にした。

■午後のテーマセッションでは2件のテーマで討論を行った。

●第1セッションでは、「欧州の安全保障問題への取り組み」を取り上げた。

  1. (1) 江本 茂樹氏より「ヨーロッパの輸出管理について」について報告があった。
    主にEU加盟国に関し解説があった。EUは27ヵ国を占め、英国、ノルウェー、スイス、ロシア等が非加盟であるが、輸出管理に関し影響が大きく、規制品目リストは事実上世界標準となっているとし、EUの最近の輸出管理に関する動向を解説した。例として、サイバー監視品目・人権侵害エンドユース規制導入、仲介・通過規制、一般包括許可制度、制裁対応、対内投資規制等の方針に関し詳細な解説があった。
  2. (2)  吉崎 知典氏より「ウクライナ危機と米中露戦略的競争の展開」としてウクライナ危機に関し、背景と、ロシア、NATOの対応について詳細な解説があった。冷戦後のNATO軍事介入について、旧ユーゴ・ボスニア空爆、コソボ紛争、リビア介入等の軍事介入の経緯、片やロシアとしてはクリミア併合、欧州前方防衛への回帰などを解説し、米中露戦略的競争の展開の結果がウクライナ危機での構図であるとした。一方、欧米対中露との体制競争が激化し欧州地域での民主主義の後退が進行しており、NATOとして中国関連情報の共有等対抗策がとられつつあるとした。
  3. (3) 岩間 陽子氏からは「ドイツ外交と経済安全保障」に対し報告があった。
    ウクライナ紛争を中心に、ドイツの外交の流れと経済安全保障について考察をした。戦後、アデナウアーの西側統合、ウィリー・ブラントの新東方政策等の変遷を受け、メルケル前首相はエネルギーのロシア依存、自動車の中国市場依存を深め、対米関係を悪化させた。現ショルツ首相はロシアへのエネルギー依存を減少させる政策をとったが、ウクライナ問題に関しては独ロ首脳会議でミンスク合意を取り付けるもロシアはすぐに反故にし現在に至る。ドイツの今後に関してはロシアとの経済的な断絶は避けられないものの、中国との関係、エネルギーや戦略物資の調達が課題であるとした。

●第2セッションでは、「米国の投資規制に関して」を取り上げた。

  1. (1) 渡井 理佳子氏から「アメリカにおける対内直接投資規制とCFIUSの審査」と題し報告があった。米国の対内直接投資規制は2018年Exson-Florioの5項目(国防上の規制)、2007年FINSA(重要機関産業、外国政府支配対応等)外国の支配が及ぶ取引全般に規制を掛けた。審査機関はCFIUS(対米外国投資委員会)、規制根拠は外国投資リスク現代化法(FIRRMA)である。審査の現状は大統領命令で拒否された例は主に中国の投資家の例が大部分であった等、制度・運用について詳細な解説があった。
  2. (2) 坂本 正樹氏より「アメリカにおけるデジタル通貨の現状・展望と経済安全保障上の論点」としてデジタル通貨の現状の解説があった。デジタル通貨(電子マネー、暗号資産、CBDC)は決済コスト・リスクの削減の効果はあるが、例えばデジタル人民元が浸透すると既存の国際秩序を揺るがす(通貨覇権)懸念があり今後注視が必要であるとした。暗号通貨は金融制裁の抜け道になる一方、民間企業の通貨発行に対し、主権国家の通貨発行権は維持されるのかの議論が生じているとした。(CBDC:主要中銀によるデジタル通貨)
  3. (3) 押田 努氏からは「米国における金融面での対中規制、制裁の拡大指向」と題して解説があった。主な手段として、輸出規制、資金提供規制と金融制裁があるが、2020年以降、輸出における直接製品規制の拡大適用とともに、上場や株式売買等の資金提供規制が導入・拡大された。米議会は輸出規制と資金提供規制の融合を求めている。更に、人権侵害、香港自治関連に関してだけでなく、従来禁輸がペナルティの相場だった行為を金融制裁中心のペナルティに移行させようとしている。これら先鋭化している米国の動向を踏まえ、従来取引をしてきた企業が規制対象となったり、制裁パッケージが拡大する傾向があるため、我が国企業も十分注意する必要があると結んだ。

■ 閉会挨拶

 世界史の教科書に載るような事件が起こったが、経済制裁や技術の問題など本学会が扱っているテーマが直接世界史に関わっていることを改めて認識させられる機会ではなかったかと感じる。今後日本がどう対処してゆくべきかを産学官で考える場になればいいと考えており、まさに本日のテーマが色々なヒントになっているので、皆様の研究・仕事に役立てていただきたい。
 なお、今回もオンラインでの学会開催であったが、多数の皆様に参加いただいたことを感謝する。

2022年4月
日本安全保障貿易学会 会長  鈴木 一人

 

日本安全保障貿易学会 第33回 研究大会プログラム

日時:2022年 3月 6日(日)
11:00~12:00 自由論題セッション
13:00~14:45 第1セッション
15:00~17:00 第2セッション
大会形態:Webex meetingsによるOnline会議


■午前 自由論題セッション                                 11:00~12:00

報告者:手塚 沙織氏(南山大学 外国語学部 英米学科 専任講師)
「人の国際移動の観点から論じる米中関係」

司会討論者:高野 順一氏(日本輸出管理研究所(貿易学会 副会長))


■テーマセッション

● 第1セッション:<欧州の安全保障問題への取り組み>   13:00~14:45
(1)報告者:江本 茂樹氏(三井物産)
   「ヨーロッパの輸出管理について」
(2)吉崎 知典氏(防衛研究所 特別研究官)
   「ウクライナ危機と米中露戦略的競争の展開」
(3) 岩間 陽子氏(政策研究大学院大学)
   「ドイツ外交と経済安全保障」
(4) 司会討論者:鈴木 一人氏(東京大学(貿易学会 会長) )

● 第2セッション:<米国の投資規制に関して>    15:00~17:00
(1)報告者:渡井 理佳子氏(慶應義塾大学)
  「アメリカにおける対内直接投資規制とCFIUSの審査」
(2) 報告者:坂本 正樹氏(丸紅経済研究所)
  「米国におけるデジタル通貨の現状・展望と経済安全保障上の論点」
(3)報告者:押田 努氏(CISTEC)
  「米国における金融面での対中規制、制裁の拡大指向」
(4)司会討論者:風木 淳氏(経済産業省(貿易学会 理事))


 

■午前 自由論題セッション


手塚 沙織氏「人の国際移動の観点から論じる米中関係」

 

 
司会討論者:高野 順一氏


● 第1セッション:<欧州の安全保障問題への取り組み>


江本 茂樹氏「ヨーロッパの輸出管理について」

 


吉崎 知典氏「ウクライナ危機と米中露戦略的競争の展開」

 


岩間 陽子氏 「ドイツ外交と経済安全保障」

 

   
         司会討論者:鈴木 一人氏         

 

●第2セッション:<米国の投資規制に関して>


渡井 理佳子氏 「アメリカにおける対内直接投資規制とCFIUSの審査」



坂本 正樹氏「米国におけるデジタル通貨の現状・展望と経済安全保障上の論点」

 

 

押田 努氏 「米国における金融面での対中規制、制裁の拡大指向」

 

 


司会討論者:風木 淳氏