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第35回 日本安全保障貿易学会 研究大会終了

 

   

  日本安全保障貿易学会第35回研究大会は、新型コロナウイルスの影響で2023年3月12日(日)にOnlineにて99名の参加者を得て開催された。午前の自由論題セッションは応募が無かったため、午後のテーマセッションのみで開催された。

■テーマセッションは2セッションを設け討論を行った。

●第1セッションでは「米国の経済安全保障」を取り上げた。

  1. (1) 中野 雅之氏より「中国向け半導体製造関連規制強化」として、2022年10月7日に施行された米国の対中輸出新規制の5つの柱のそれぞれの内容について、詳しく報告がなされた。この規制は、現在の米国の対中観に基づきAI、スーパーコンピュータ、先端半導体、半導体製造装置といった軍事力増強につながる喫緊の品目を中国に渡さないことが狙いと考えるとした。米国は同志国協調を理想としているが実現にはスピードが不足するため今回の規制に踏み切ったと考えられ、米国の本気度は非常に高いところ、従来型のWA等の不拡散型規制との調整を今後の課題とした。
  2. (2)山田 哲司氏より「米国『CHIPSおよび科学法(以下CHIPS法)』」の報告が実施された。CHIPS法の約2800億ドルの予算の内、特に半導体支援に関わる527億ドルの予算内容の説明や、米国政府・議会の考え方、半導体各社の米国投資計画、次世代半導体での日米連携などについての説明がなされた。CHIPS法は、米国の安全保障/経済安全保障の観点と米国の産業政策の観点があり、官民を含めた日米連携のあり方がますます重要となる一方で、日本としては各国の産業政策と国際通商ルールの整合性が図られるよう呼びかけていくことも必要であるとした。
  3. (3)齊藤 孝祐氏より「インフレ抑制法の成立と経済安全保障への影響」として報告があった。インフレ抑制法(IRA)はバイデン政権の主要ターゲットである気候変動対策との位置づけであるが、環境のみならず経済安全保障、景気対策、自動車を含む産業にまたがっており、対中戦略としての経済安全保障を目的とした法案でもないため、国内外で様々な反発を生んでいるとした。米欧双方でグリーン産業政策が台頭していることは気候変動対策の観点からは良いが、IRAは気候変動対策、経済安全保障、自由貿易いずれの観点からもの正当性が弱いとした。

●第2セッションでは「戦略三文書に関する諸課題」を取り上げた。

  1. (1) 原 一郎氏より「経済界から見た国家安全保障戦略」として、経済界にとって重要と考えられる事項が報告された。改訂された国家安全保障戦略は、現在の厳しい安全保障環境を反映していると前置きした上で、外交力・防衛力・経済力・技術力・情報力という国力の5つの要素を高次で融合させることが重要との認識が示された。経済安全保障の確保にあたっては、経済力への十分な配慮が必要である一方、情報力を高める必要があるとした。また、経済安全保障という新しい領域が先験的に存在する訳ではなく、経済と安全保障とのバランスを一つ一つの制度の中で都度見出していく作業の積み重ねの結果が経済安全保障を確保することにつながるとの認識を示した。
  2. (2) 森本 正崇氏より「三文書後の防衛装備移転政策」として報告があった。三文書の防衛装備移転に関係する部分について検討を行った。国家安全保障戦略では同盟国・同志国との連携を強化し、力による現状変更等を抑止する手段として防衛装備の共同開発や移転が明示されているが、具体的な見直しは今後の課題とした。国家防衛戦略で防衛生産・技術基盤は防衛力そのものであり我が国に必須のものとしたこと、防衛力整備計画で経済性を明示したことは画期的であるとした。一方で、防衛装備移転・輸出の抜本的拡大と装備品修理改善のためにはさらなる検討と改善が必要とした。
  3. (3) 畑田 浩之氏より「経済安全保障の視点からみた防衛産業」として報告があった。
    経済安全保障の時代となり、ルールを当然のこととしてあてにできない中で自身の関心をいかに確保していくかが大事になってきている中、自律性の向上、優位性・不可欠性の確保、基本的価値・ルールに基づく国際秩序の維持強化が重要とした。防衛産業基盤を持つ意味は新しい戦い方の開発を行うということであり、防衛産業が魅力あるビジネスとして成り立つようにする仕組みを検討することが必要とした。防衛装備移転については政策として国が前面に立って行うものであり、防衛技術基盤では当初は民生技術目的であっても装備品に活用できる取り組みが必要とした。

■ 閉会挨拶(鈴木会長)

 今回も詳細で充実した有意義なご報告をいただいた。これまでわかっていたようで理解が不十分であった内容について多くの学びがあった。次回研究大会でも活発な議論をお願いしたい。日曜日であるにも拘わらず多数の皆様にご参加いただき感謝する。

2023年4月
日本安全保障貿易学会 会長  鈴木 一人

 

日本安全保障貿易学会 第35回 研究大会プログラム

日時: 2023年3月12日(日)
13:00~15:00 第1セッション
15:10~17:15 第2セッション
大会形態: Webex meetingsによるOnline会議

■テーマセッション

● 第1セッション <米国の経済安全保障> 13:00~15:00
(1)中野 雅之氏(一般財団法人 安全保障貿易情報センター(CISTEC)(学会理事))
  「中国向け半導体製造関連規制強化」
(2)山田 哲司氏(地経学研究所)
  「米国『CHIPSおよび科学法』について」
(3) 齊藤 孝祐氏(上智大学)
  「インフレ抑制法の成立と経済安全保障への影響」

 司会討論者: 鈴木 一人氏(東京大学(学会会長))

● 第2セッション <戦略三文書に関する諸課題> 15:10~17:15
(1)原 一郎氏(一般社団法人 日本経済団体連合会)
  「経済界から見た国家安全保障戦略」
(2)森本 正崇氏(慶応義塾大学(学会理事))
   「三文書後の防衛装備移転政策」
(3)畑田 浩之氏(経済産業省(学会理事))
  「経済安全保障の視点からみた防衛産業」

  司会討論者: 宮脇 昇氏(立命館大学(学会理事))


■テーマセッション
●第1セッション <米国の経済安全保障>


中野 雅之氏「中国向け半導体製造関連規制強化」



山田 哲司氏「米国『CHIPSおよび科学法』について」

 


齊藤 孝祐氏「インフレ抑制法の成立と経済安全保障への影響」

 

   
司会討論者:鈴木 一人氏         

 

●第2セッション <戦略三文書に関する諸課題>


原 一郎氏「経済界から見た国家安全保障戦略」



森本 正崇氏「三文書後の防衛装備移転政策」

 

畑田 浩之氏「経済安全保障の視点からみた防衛産業」

 

 


司会討論者:宮脇 昇氏